「デジタル実装」からわかること(3)

寄稿:株式会社QUICK
第3回 「デジタル実装」からわかること
行政サービス分野でのデジタル実装事例
全ての人がデジタル化の恩恵を享受できる快適な社会を実現し、地方の社会課題解決・魅力向上の取組を加速化・深化するために、「デジタル田園都市国家構想交付金」によって各地方公共団体の意欲的な取組を支援しています。対象となる取組はいくつかのタイプに分類され、タイプごとに補助率や申請要件等が異なります。また、交付金の活用用途は以下の14に分類されています。
・行政サービス
・住民サービス
・教育
・文化・スポーツ
・医療・福祉
・子育て
・交通・物流
・農林水産
・防災・インフラメンテナンス
・産業振興
・観光
・防犯
・環境・エネルギー
・その他
今回は、「行政サービス」に関する事例を取り上げます。
総務省が公表する「自治体DX・情報化推進概要」によると、令和5年度の行政サービス分野での手続き総件数は、「図書館の図書貸出予約等」が全体の38.35%を占めています(グラフ1)。手続き総件数が多い図書貸出予約等をオンライン化することで、職員・住民双方の手続きがより簡便になり、サービス利用満足度が高くなりやすいのではないかと考えられます。
グラフ1

そこで、「図書館の図書貸出予約等」に関連するデジタル実装事例があるかどうか確認しました。
RAIDAの「デジタル実装」から「全国のデジタル実装事例」をクリックし、分野を「行政サービス」で絞り込み、CSVをダウンロードしてから令和4年以前の取組事例を検索しました。該当した自治体の取組をいくつかご紹介します。
佐賀県佐賀市では、住民向けポータルアプリサービスの一つとして、「何でもアプリで!『スマート図書館』サービス」を行っています(図1、図2)。これはデジタル実装タイプのTYPE2に該当しています。TYPE2とは、データ連携基盤活用型と呼ばれるタイプです。データ連携基盤を活用した、複数のサービス実装を伴う取組であることが求められます。
図1

図2

「何でもアプリで!『スマート図書館』サービス」では、アプリから図書館のデジタル利用カードを表示できたり、貸出ランキングや書籍のデータを閲覧したりすることができます。
他にも、新潟県弥彦村、岐阜県美濃市、岡山県備前市、愛媛県新居浜市、宮崎県延岡市では、図書館利用に関してTYPEX(マイナンバーカード利用横展開事例創出型)の取組が行われています。これは、マイナンバーカード高普及率団体において、他の地域における横展開が容易なカード利用の取り組みを支援するために創設された区分です。マイナンバーカードの現状申請率が7割以上であることや、当該団体内における、マイナンバーカードの新規用途の開拓を申請要件としています。ただし、デジタル庁によれば、TYPEXは「令和4年度補正予算限りの時限措置」であり、令和5年度以降は実施されていません(図3)。
図3

TYPEXでは、マイナンバーカードを住民カード化したり、自治体のポータルサイトと連携したりする事業の一環として、図書館利用に関するオンライン化が進められています。上記の5自治体に共通するのは、マイナンバーカードを図書館カードとして使用し、図書の貸出を可能とする点です(図4は岐阜県美濃市の例)。これにより、利用者のカード枚数を削減できるほか、図書館カード忘れへの対応を少なくできると考えられます。他にも、マイナンバーカードを利用して本人確認を行うことで、来館しなくても図書館の新規利用申請を行うことができるようにした自治体もあります。従来では、図書の予約等はオンライン化できていても、図書館の新規利用申請のために来館を必要とすることが多いことが問題となっていました。しかし、新たなサービスによって、図書館までの距離や開館時間、利用者の身体的特徴などによって来館が難しかった住民でも、自宅にいながら図書館サービスへの登録・利用ができるようになり、利便性が向上しています。また、マイナンバーカードによる本人確認によって、電子書籍の貸出も可能です。
図4

追加で特徴的な取り組みを行っている自治体は以下の通りです。岐阜県美濃市では、市内の小中学校の学校図書館でもマイナンバーカードを利用して図書の貸出をすることが可能です。さらに、未就学児をもつ親が、近隣の学校図書を借り、自宅で利用できるようになるといった、近隣住民の利便性も向上しています。岡山県備前市では、マイナンバーカードで24時間いつでも本の予約ができ、図書館等に設置された貸出ロッカーで夜間休日に受け取り可能な予約システムを提供しています(図5)。宮崎県延岡市では、住民向けサービスのアプリ「のべおかポータル」と図書館システムを連携し、ポイント付与を可能としています。また、利用者の同意に基づき、興味のある分野に関する蔵書情報やイベント情報のプッシュ通知を実施しています(図6)。
図5

図6

このように各自治体では、関連するデジタル実装の事業を実施することで、「図書館の図書貸出予約等」における利用者の利便性を向上させていますが、この結果は他のオープンデータからも確認できます。令和4年にデジタル実装の事業を実施している、愛媛県新居浜市と宮崎県延岡市について、令和2年度と令和5年度の「図書館の図書貸出予約等」のオンライン利用率のデータを見てみます。なお比較のために、宮崎県延岡市、愛媛県新居浜市それぞれの類似団体の数値についても併せてグラフを示します。(グラフ2、グラフ3が延岡市、グラフ4、グラフ5が新居浜市)。ここでの類似団体とは、財政力指数が類似している団体を指します。RAIDAでは、類似団体として「財政状況」と「人口規模、産業規模、地理的特性」を選択し、比較することができます。
グラフ2

グラフ3

グラフ4

グラフ5

延岡市は、令和2年度と比べてオンライン利用率が増加し、利便性の向上が定量的にも確認できます。新居浜市は、令和2年度とほぼ変動はなく、類似団体の中でも水準が高いことが分かります。このように、デジタル実装事例と関連性が高いオープンデータの指標の数値について、類似団体や周辺の自治体とも比較しながら確認することで、実施済のデジタル実装の効果検証や今後実施すべき施策の検討を行う材料を得ることができそうです。
次回は、住民サービス分野の取組事例に注目します。