物価高騰、国内産の肉や魚へも影響 連載シリーズ:止まらぬ物価高(4)
寄稿:久場悠矢
第4回 物価高騰、国内産の肉や魚へも影響
第1回では、食料を巡る物価高騰について地域別に分析しました。円安や燃料費高騰が食料価格高騰に繋がっていると指摘し、沖縄の食料価格高騰が顕著なのは輸送コストの高さや自給率の低さが原因であることがわかりました。
今回は食料を中分類別に分析し、輸入品の価格変化と国産品の生産構造の観点から価格高騰を分析してみます。
「食料」の物価指数を中分類別に見たところ、2021年末頃から全ての分類で上昇していますが、特に魚介類が上昇しています。
次に、魚介類とその代替財である肉類に絞って比較します。どちらも2021年後半から徐々に上昇していますが、魚介類の上昇が著しく、2023年は全ての月で肉類を10ポイント以上も上回っています。
魚介類の価格高騰が顕著な要因
では、なぜ肉類よりも魚介類の価格が高騰しているのでしょうか。まずは、第1回に倣って自給率を参照します。
肉類と魚介類の自給率を比較すると、どちらも毎年50%台ですが常に魚介類が高いことがわかります。円安や輸送費高騰から考えると、より物価指数が高い魚介類のほうが肉類よりも自給率が低いと予想できますが、統計では逆の結果となっています。したがって、魚介類の価格高騰には自給率以外の分析が必要になります。
では、価格上昇の原因は何でしょうか。1つ目の要因として魚介類の輸入品の価格高騰が挙げられます。
輸入の魚介類と肉類の重量あたり価格を比べてみると、魚介類は2023年の価格が2020年に比べて38%上昇しており、肉類は28%上昇しています。したがって、魚介類の輸入品高騰幅が大きいため、肉類よりも消費者物価指数が上昇したと考えられます。
2つ目の要因として、国内漁業の生産構造が挙げられます。
上のグラフは漁船漁業の個人経営体における、1経営体あたりの漁労支出を2020年と2022年で比較したものです。漁船漁業は船を出す必要があるので、燃料コストがかかります。燃料費高騰を受けて、2020年から2022年にかけて油費は25.3%上昇し、全体コスト9.6%上昇の主な要因となっています。船を出す必要がない養殖業でも、輸入に依存しているえさ代が高騰しています。2022年漁業経営統計調査によると、ぶり類やまだいの生産費の約6割がえさ代であり、養殖業者を圧迫しています。
このように、輸入品の価格高騰に加えて国産品の生産に不可欠な燃料やえさ代も高騰していることが、魚介類の物価指数上昇の背景にあります。
国産品と輸入品の比較
次に国産品の生産構造がどう価格に影響しているかを詳しく見るため、肉類を国産品と輸入品に分けて分析してみます。
牛肉と豚肉においては、国産品と輸入品別の統計が公開されています。2023年の物価指数は国産牛の105に対し輸入牛肉は125と、輸入品が大きく上回っています。一方、豚肉の2023年の物価指数は国産品114、輸入品112と、国産品がわずかに上回っています。このデータから、輸入品以外も値上がりしていることが明確にわかります。そして、こちらも生産費の内訳を見るとその理由がわかります。
牛肉の生産費は輸入に依存している飼料費の高騰が+36.9%と顕著ですが、肥育・育成用の家畜であるもと畜費が減少しており、結果として費用合計は+4.4%に抑えられています。国産品の物価指数が104と豚肉よりも低い水準にとどまることに繋がっています。
一方で豚肉は、費用の半分以上が飼料費であり、上昇幅も44.5%です。そのため費用合計も+28.8%と、コスト増を抑えられていません。したがって、飼料費の割合が高い豚肉の生産コスト増が顕著であり、輸入品よりも物価指数が高いことに繋がっています。
おわりに
今回は、RAIDAの中分類別消費者物価指数データから出発して、魚介類と肉類の物価高騰の実態を分析しました。円安や燃料費高騰により輸入品の値上がりがイメージされやすいですが、国内の漁業や畜産業は生産材料を輸入品に依存しているため、国産品であっても値上がりしています。同様の状況が野菜生産や他の産業でも起きており、円安と燃料価格高騰が複雑に社会に影響を及ぼしています。
したがって、物価高騰に関連してさまざまな問題が起こりうる可能性があります。例えば食料安全保障の観点から、食料自給率を高めることが重要視されていますが、現状のように国産品の生産材料を輸入品に依存している場合、安全保障の効果は薄くなります。今後分析する際には、このような社会の複雑さに注意しながら総合的に分析することが大事だと言えそうです。