輸入原料への依存が引き起こす、生活必需品の高騰 連載シリーズ:止まらぬ物価高(2)

2024.02.09物価高騰・円安

物価高騰・円安

寄稿:平松大和

横浜国立大学池島研究室(株式会社QUICK研究員) QUICKは世界中から様々なデータやニュースを集め、主に金融・資本市場に関わる意思決定をサポートするためのサービスを展開する。金融市場以外にも事業領域を広げ、RAIDAが扱うオルタナティブデータの収集や活用にも取り組む。

第2回:木材価格が上昇、「トイレットペーパー」も値上げ余儀なく

1月19日に発表された2023年12月の消費者物価指数(CPI)では、80.7%の品目が前年同月比で上昇しました。「電気代」が-20.5%、「都市ガス代」は-20.6%と、政府主導の負担軽減策が影響し下落した品目がある一方で、「食料」は+6.7%、「家具・家事用品」は+6.5%と、生活に必要な品目の上昇率が全品目(2.6%)より大きくなっています。CPI上昇の一因には、輸入物価の上昇があります。日銀が1月16日に発表した12月の輸入物価指数(円ベース、速報値)は前年同月比で4.9%下落したものの、2020年平均比では62.0%高い水準にあります。CPIの伸び率は2023年1月をピークに低下傾向にありますが、輸入物価が下がりきらない限りは高水準で推移すると考えられます。

CPI(総合)上昇率の推移
出典:総務省「消費者物価指数」を加工して作成
消費者物価指数と輸入物価指数の推移
出典:総務省「消費者物価指数」、日本銀行「企業物価指数」を加工して作成

12月は「木材・木製品・林産物」の輸入物価指数が前月比3.9%下落しました。11月(0.8%上昇)から一転して下落しましたが、2020年平均と比較すると51.7%高い水準です。指数は輸入物価指数を構成する10項目のうち4番目に大きく、木材を使用する様々な商品にも影響が及んでいるとみられます。

本稿では、木材から作られるパルプを主原料とする「トイレットペーパー」に着目します。トイレットペーパーは、CPIの分類で「家具・家事用品」内の「家事用消耗品」に含まれます。12月の上昇率は前年同月比16.6%でした。

大手企業の値上げで価格は大幅上昇

まず、2022年1月から2023年12月までのトイレットペーパーの小売価格の推移を見ていきます。

紙製品の小売価格推移
出典:総務省「消費者物価指数」、日本銀行「企業物価指数」を加工して作成

トイレットペーパー、ティッシュペーパーの価格は共に上昇しています。2023年2月には、トイレットペーパーの価格が前月から100円以上も上昇していますが、これには、市場シェア1位の「エリエール」ブランドを手掛ける大王製紙(大王製紙ホームページより)を始めとする製紙メーカー各社が、2023年1月以降、製品価格の値上げに踏み切った事が影響していると考えられます。

円安やロシアの輸出制限、原材料高に影響

小売価格上昇の背景には、原材料費や輸送費といったコストの増加があると考えられます。

トイレットペーパーやティッシュペーパーは、木材チップから生成されたパルプで作られています。このパルプは、マツやスギなどの針葉樹と、ユーカリやブナなどの広葉樹を混ぜて作られます。日本製紙連合会の資料によると、パルプの原料となる木材における輸入材の割合は約72.9%となっています。

木材チップの輸入比率
出典:日本製紙連合会の資料を加工して作成

輸入原料を使用することで、国産原料よりも安価に製造できるというメリットがある一方、パルプ製造に必要不可欠な針葉樹の輸入先は米国とオーストラリアで8割以上、広葉樹の輸入先はベトナムが約半数を占めており、為替相場の影響を受けやすく、その結果、供給価格が不安定になるという側面があります。

月別通関価格の推移
出典:財務省「貿易統計」を加工して作成

木材チップについては、2022年に入り針葉樹を含めた全ての輸入価格が1.5倍以上に高騰しています。背景にあるのは大幅な円安・ドル高の進行です。2022年10月に円相場は、32年ぶりに1ドル=150円台を記録しました。外国からの原料輸入に依存しているトイレットペーパーの製造において、円安による原材料コストの増加が小売価格上昇の大きな要因です。

ロシアによる輸出制限も大きく影響したようです。ロシアのウクライナ侵攻から約2週間後の2022年3月9日、ロシア政府は日本を含む「非友好国」に対し、木材チップの輸出禁止を発表しました(※2023年3⽉2⽇に輸出禁⽌措置を一部解除)。日本の木材チップ輸入において、ロシアの割合は1%(約13億円)程度ですが、全体で見れば供給に影響し、価格上昇につながったと考えられます。

「安価で大きい」トイレットペーパー、輸送コスト削減に苦戦

輸送費の増加も影響しています。現在、燃料価格の高騰に加え、トラックドライバーの不足が進んでおり、輸送費が大幅に高騰しています。

有効求人倍率の推移
出典:厚生労働省「職業安定業務統計」資料を加工して作成

上記チャートの通り、2023年8月の全職種の有効求人倍率が約1.3倍であるのに対し、トラック運転手を含む自動車運転事業者の有効求人倍率は2.5倍と人手不足が続いています。国土交通省の調査によるとトラック業界で働く人のうち約45%は40代、50代前半の方々であり、働き手の高齢化も課題となっています。

人手不足や燃料費の高騰に加え、トイレットペーパー自体にも物流コストを引き上げる大きな特徴があります。それが、他の商品と比較して「安価でサイズが大きい」という点です。トイレットペーパー製造各社は「二倍巻き」商品の販売に注力するなど、可能な限り輸送を効率化する対策を講じていますが、他の商品よりも輸送コストがかかる状況に変わりはありません。

物流の「2024年問題」と言われるように、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が施行されるため、今後はさらに輸送力の低下が進む可能性があります。また円安が長期化し、不透明な国際情勢も続きそうです。トイレットペーパーなどに代表される生活必需品の価格には、今後も上昇圧力がかかりそうです。

厚生労働省の発表によると、物価の影響を考慮した「実質賃金」は20か月連続でマイナスとなり、依然として物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況です。政府も賃上げ促進税制の導入や所得税減税の検討など様々な施策に取り組み始めました。物価上昇という過去30年経験していない局面を前に、打ち出す施策が求める効果を生むのか、データによる効果検証も重要になりそうです。