デジタル実装からわかること(農林水産)

~担い手不足を補う効果的なデジタル施策を確認する方法~

2026.02.03デジタル実装

デジタル実装

寄稿:株式会社QUICK

世界中から様々なデータやニュースを集め、金融・資本市場に関わる意思決定をサポートするために独自の分析・評価で価値を加え提供する。RAIDAが扱うオープンデータの収集や活用にも取り組んでいる。

第8回 「デジタル実装」からわかること

今回は「農林水産」の分野に関する事例を取り上げます。人口減少や高齢化、後継者不足などを背景に、農林水産業に従事する人の数は減少傾向にあるといわれています。図1は経済センサス活動調査による農業・林業、水産業の従業者数(企業単位。個人経営の事業所を除く)の推移です。最新データとなる2021年は農業・林業が約40万人、漁業は約4万人で、2012年と比べると農業・林業は増加、漁業は減少しています。農業・林業では個人経営体が減っているものの法人経営体が増加しており(出典:農林水産省2025年農林業センサス結果の概要)、雇用就農者が増えていることが背景にあるようです。

農業・林業分野での就農者増加が見られるものの、今後の人口減少等を踏まえると、担い手不足を補うために生産性を上げることが喫緊の課題です。課題解決に向けた効果的なデジタル実装について、今回は「農業」を中心に事例を見ていきます。

図1農業・林業、漁業従業者数の推移
RESASの産業分析構造をもとに筆者作成(2026年1月9日)

農林水産分野のデジタル実装、スマート農業への取り組みが多い

農業のデジタル実装事例では、ロボットやAI 、IoTなどの先端技術や農業データを活⽤する、いわゆる「スマート農業」への取り組みが多くみられます。2021年度から2023年度にかけて農林水産分野で実装された140件の事例のうち、スマート農業が72件と過半数を占めています。その中から、北海道厚真町と大分県佐伯市の2つの自治体の取り組みを紹介します。

北海道厚真町は札幌市の南東、太平洋側に位置し、米や野菜、花き、果樹の栽培、畜産業が盛んで、特にハスカップの栽培では作付面積が日本一を誇ります(出典:厚真町公式サイト)。作業の省人化と付加価値の高い作物の生産を目的に、2021年度から複数のスマート農業のデジタル実装に取り組んでいます。2021年度に「最先端デジタル園芸導入」と「スマート農業推進」事業(実装TYPEはいずれもTYPE1)、2022年度にも引き続き「スマート農業推進」事業を進めています。

最先端デジタル園芸導入事業は事業規模が199,925千円で、スマート農業の事例の中では大きな規模です。中心は作物栽培システムの実装で、収益性が高い作物とされる「イチゴ」の栽培に導入しています。具体的にはビニールハウスの環境制御管理の自動化(システム化)です。従来作業の省力化と労働環境の改善がのぞめるほか、高品質なイチゴを安定的に収穫できるようになれば、新規就農者の参入も期待できるとしています(図2)。

図2北海道厚真町のデジタル実装事例1
出典:RAIDA「北海道厚真町のデジタル実装事例」(2026年1月9日利用)

2021年度に採択された「スマート農業推進」事業は、ビニールハウスの栽培環境管理技術の導入が中心で、温度や水分、養分の管理の自動化を進めています。同技術の導入で農作業時間の削減と収穫量の安定化、収益性の向上が期待されています(図3)。

図3北海道厚真町のデジタル実装事例2
出典:RAIDA「北海道厚真町のデジタル実装事例」(2026年1月9日利用)

2022年度には「水田水位管理省力化システム(水田当番、環境センサー)」の実装に取り組んでいます。自動で水を適正管理できるようにして作業負担を減らし、収穫量の増加や農地の維持、ひいては担い手確保につなげるねらいです。

図4スマート農業推進事業
出典:RAIDA「北海道厚真町のデジタル実装事例」(2026年1月9日利用)

次の実装事例として大分県佐伯市での取り組みを見ていきます。佐伯市は県の南東部に位置し、九州で一番広い面積を持つ市(2025年4月1日時点)です。農林水産業が盛んで、米や果樹、野菜、花き、お茶などの栽培や畜産業を営んでいます。水田農業でスマート農業技術を活用した効率的な作業の一貫体系を確立するため、2021年から「スマート農業推進」事業(TYPE1)を始めています。

中心となるのは「スマート農機」の活用で、実施主体は(公財)さいき農林公社を核とした佐伯地域農業経営サポート機構です。同機構は各種のスマート農機を所有し、貸し出しています。スマート農機の活用で作業の省力化と作業体制の維持を目指しています。

図5大分県佐伯市のデジタル実装事例
出典:RAIDA「大分県佐伯市のデジタル実装事例」(2026年1月9日利用)

課題指標を使ったデジタル実装の効果検証

取り上げた2つの自治体のデジタル実装の効果を、RAIDAの「地域課題の比較」機能において指標としている「耕作面積増減率」と「労働生産性(農業林業)」を利用し、検証したいと思います。

「地域課題の比較」機能は、デジタル実装ページの中央付近にあります。北海道厚真町を指定し、対象分野を「農林水産」、課題指標をまずは「耕作面積増減率」と選択してみます。

北海道厚真町では、2024年度の耕作面積増減率が0.00%と横ばいで、全国平均の-1.07%と都道府県(北海道)平均の-0.56%と比べて耕作面積は減少していません。人口規模、産業構造、地理的特性が類似する団体の平均-0.59%と比較しても同様です。また、厚真町の5年前(2019年度)の耕作面積増減率-4.91%からも改善しています(図6)。

図6北海道厚真町の地域課題の比較1
出典:RAIDA「北海道厚真町の地域課題の比較」(2026年1月9日利用)

次に指標を「労働生産性(農業林業)」と選択してみます。労働生産性の最新データが2021年度で(2026年1月現在)、今回のデジタル実装の効果を見るうえではまだ十分でないかもしれませんが、労働生産性は特にスマート農業での効果検証として有用な指標です。

北海道厚真町の2021年度の労働生産性は7,745千円/人と、5年前(2016年度)から改善しています。類似団体の平均(2,959千円/人)や全国平均(2,510千円/人)、都道府県平均(3,481千円/人)を大きく上回っています(図7)。

図7北海道厚真町の地域課題の比較2
出典:RAIDA「北海道厚真町の地域課題の比較」(2026年1月9日利用)

2例目の大分県佐伯市では2024年度の耕作面積増減率が1.64%でプラスです。一方、都道府県(大分県)平均は-0.51%、類似団体の平均は0.02%で、佐伯市の耕作面積の増加率が高いことがわかります。また、佐伯市の5年前(2019年)の耕作面積増減率-0.52%と比べても数値がプラス転換し、改善しています(図8)。

図8大分県佐伯市の地域課題の比較1
出典:RAIDA「大分県佐伯市の地域課題の比較」(2026年1月9日利用)

労働生産性についても検証してみます。大分県佐伯市の2021年度の労働生産性は4,019千円/人と5年前から低下していますが、類似団体の平均(2,244千円/人)や全国平均(2,510千円/人)、都道府県平均(2,454千円/人)と比べると、上回っていることがわかります。

図9大分県佐伯市の地域課題の比較2
出典:RAIDA「大分県佐伯市の地域課題の比較」(2026年1月9日利用)

以上の課題指標を使った検証では、北海道厚真町はどちらも数値が改善、大分県佐伯市は労働生産性は下がっていますが、耕地面積増減率は改善していることがわかります。いずれもデジタル実装への取り組みによる効果が反映されているのかもしれません。

任意の自治体とも比較

最後に、北海道厚真町を取り上げ、任意の自治体とも比較をしてみます。任意の自治体には、厚真町と隣接する「安平町」、「むかわ町」、「由仁町」の3つを挙げてみます。任意の自治体との比較画面は、「地域課題の比較」画面またはデジタル実装のトップ画面から「任意自治体との比較」を開いて表示できます(図10)。比較対象の3自治体の設定は、「比較対象」の「変更」から、「任意の市区町村」でそれぞれ選択します(図11)。

図10任意自治体との比較1
出典:出典:RAIDA「デジタル実装画面」(2026年1月9日利用)
図11任意の自治体との比較2
出典:RAIDA「任意自治体との比較」(2026年1月9日利用)

「交付金を活用したデジタル実装状況」欄の対象分野は「農林水産」、さらにサービス分類は「スマート農業」と絞ります。また、「地域課題の比較」欄を「耕地面積増減率」、「2024」と選択します(図12)。

3自治体と比べてみると、厚真町のみデジタル実装を実施していること、耕地面積増減率が減少する自治体もある中で、増減率が0%であることを確認できます。

同様に「労働生産性(農業林業)」についても比較してみることが可能です(図13)。

図12任意の自治体との比較3
出典:RAIDA「任意自治体との比較」(2026年1月9日利用)
図13任意の自治体との比較4
出典:RAIDA「任意自治体との比較」(2026年1月9日利用)

また「地域課題の状況」では、任意の自治体のうち1つを選択して比較した場合の「今後注力するポイント」が青色で示されます。例えば図14では「労働生産性(農業林業)」が注力ポイントとして確認できます。

厚真町は上記の課題指標による効果検証で数値が改善していましたが、様々な自治体と比べてみると、労働生産性に注力ポイントがあると言えそうです。

図14任意の自治体との比較5
出典:RAIDA「任意自治体との比較」(2026年1月9日利用)

このように、RAIDAのデジタル実装機能では、全国の実装事例を検索したり、関連性が高いオープンデータを類似団体や任意の団体と比較したりすることが可能です。これにより、施策の効果検証や、今後の施策案などを検討する材料を得ることができます。