「デジタル実装」からわかること(6)

寄稿:久場悠矢
第6回 「デジタル実装」からわかること
教育分野でのデジタル実装事例
今回は「デジタル実装状況」と「全国のデジタル実装事例」を使い、どのように教育分野のデジタル実装が行われているかを分析してみます。
まず、「デジタル実装状況」で対象分野を「教育」、サービス分類を「すべてのサービス分類」と選択し、各都道府県がどれくらい教育分野のデジタル実装をしているか確認します。都道府県ごとに比較したところ、ほとんどの県においてデジタル実装をしている自治体の割合は40%を下回っていました。一方で、唯一岩手県は90%を上回っています(図1)。

次に、岩手県がどのようなデジタル実装を行っているか、細かく調べてみます。「全国のデジタル実装事例」において、都道府県を「岩手県」、分野を「教育」とし、その他の項目は「全て」を選択して調べてみます。岩手県の教育分野のデジタル実装事例が挙げられましたが、全39事例のうち、25事例が「校務支援システム導入」でした(図2)。

更に、岩手県の校務支援システム導入事例の詳細を調べてみると、全ての事例が広域連携をしており、連携団体が「岩手県」もしくは「盛岡市」でした。各事例には事業概要のリンクが載っているので、事業概要を見ることができますが、岩手県全体において、「岩手県クラウド統合型校務支援システム」という全県統一のシステムを使っていることが分かりました(図3,4)。校務支援システムを導入することで生徒の情報を一元管理し、教育活動の質の改善や業務軽減をはかることが期待されています。


更に、県の教育企画室学校教育情報化担当が公表する「令和4年度『岩手県働き方改革プラン』策定・推進会議資料」の「統合型校務支援システム導入について」には、「統一導入(共同調達・共同運用)することで、費用面においてランニングコストの大幅な削減効果(他県の例では約40~50%減)が期待できる。」との記述がありました。つまり、自治体を跨いで共同で導入することでコスト削減が期待されていることがわかります。
そこで、全国の校務支援システム導入事例を、自治体が単独で導入した事例(単独)と他自治体と連携して導入した事例(広域)に分けて分析してみます。「全国のデジタル実装事例」において、分野を「教育」、サービス分類は「校務支援システム導入」、その他の項目は「全て」を選択してCSVデータをダウンロードして 調べてみます。単独と広域の事例の数はそれぞれ88と42で、単独の事例数は広域の約2倍でした。また、単独の事業規模の平均は41,764千円で、広域の事業規模の平均は32,701千円でした。つまり、広域で導入している事例の方が平均費用を抑えられています。
また、事例を費用が低い順に並べると、上位5事例のうち3事例が広域導入であり、3事例全てが岩手県の事例でした。つまり、岩手県のこれらの自治体は広域導入により、少ない費用で校務支援システムの導入を実現できた可能性があります。最も費用が低い岩手県住田町は、8万7千円で校務支援システム導入を実現していました。
広域の事例が費用を抑えられていることが分かりましたが、サービスを受ける生徒の人数は、事例ごとにバラバラなので、生徒一人当たりの費用も見る必要があります。
図5は2023年の小中学校の生徒数と生徒一人当たりの事業規模をプロットした散布図です。広域導入の事例は、導入を行った各自治体の生徒数と事業規模を合計しています。まず、どちらの値も事例ごとのバラつきがかなり大きいことがわかります。そして、生徒数が大きい事例は生徒一人当たり事業規模、つまり生徒一人当たりの費用を抑えられていることと、生徒一人当たりの費用が大きい事例は生徒数が少ないことがわかります。広域導入をしている事例に着目すると、生徒数が比較的多くなっており、生徒一人当たりの費用は低く抑えられていることがわかります。

図5では全体の傾向が分かりづらいため、自然対数eを底として対数変換した値でグラフを作ってみます。対数変換することで、データのバラつきを抑えて見ることができます。(図6)
まず、生徒数が多い方が、つまり一つの校務支援システムで多くの人数を対象に導入する方が、一人当たりの費用を低く抑えられていることがわかります。

費用は個々の導入内容など他の要因によっても変わるので、一概にこの分析のみで判断するのは注意が必要ですが、広域導入で対象とする生徒数を多くすることで、費用を抑えられることが示唆されます。
以上より、岩手県はデジタル実装を行っている自治体が多く、それは「校務支援システム導入」を県で統一導入しているからであることが分かりました。また、全国の「校務支援システム導入」の実装事例を費用に着目して見ると、費用が小さい事例に広域導入した岩手県が多いことがわかりました。最後に、生徒数が多い事例ほど生徒1人当たりの費用を低く抑えられていることがわかりました。
もちろん大規模で導入すると個々の市町村の事情に合わせることは難しくなりますし、教員が担当する学生数が少ない場合は、校務支援システムを導入する効果も小さくなるでしょう。しかし、少子化に伴って各自治体の生徒数が少なくなっていく中ではますます単独でデジタル実装を行っていくことが難しくなると予想されます。今後は広域でデジタル実装を導入する必要性が増し、そのために各自治体が連携することが重要になると言えそうです。
このように、デジタル実装事例と、関連性が高いオープンデータを使って、他団体と比較することで、同じ分野での実装を検討する際の材料が得られそうです。
次回は、医療・福祉分野の取組事例に注目します。